精巣がん(睾丸腫瘍)

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精巣がん(睾丸腫瘍)

【1】精巣がん(睾丸腫瘍)とは
精巣がん(睾丸腫瘍)

精巣は、男性ホルモンを分泌すると同時に、精子をつくり生殖を可能にする臓器です。
この2種類の機能を支える細胞は、同じ精巣にありながら別々のものです。男性ホルモンを産生するのは、ライディヒ細胞、他方、精子をつくるもとになるのは精母細胞と呼ばれています。精巣で造られた精子は、射精時に精巣上体精管をへて、前立腺部の尿道より射出されます。
精巣に発生する悪性腫瘍のほとんどは、この精母細胞から発生するもので胚細胞腫瘍とも呼ばれています。
精巣がんの確立したリスク要因は、停留精巣(乳幼児期に精巣が陰嚢(いんのう)内におさまっていない場合)の既往とされています。停留精巣を持つ男性の精巣がんリスクは、そうでない男性の2.5~11.4倍と報告されています。ホルモン要因と遺伝要因も重要な原因と考えられ、胎児期のエストロゲン曝露(ばくろ)、精巣がんの家族歴もリスク要因の候補として挙げられています。
精巣に発生する胚細胞腫瘍は、顕微鏡で観察した病理組織像により下記のように分類されます。

 セミノーマ(精上皮腫)  セミノーマの像からのみ成り立っている場合
 非セミノーマ  次の中から、少なくとも1種類が構成成分の中に見られる場合
・胎児性がん
・卵黄嚢腫(らんおうのうしゅ)
・絨毛がん
・奇形腫

セミノーマと非セミノーマの分類は、その後の治療方針を決定する上で非常に重要です。
その理由は、セミノーマでは抗癌剤を投与する化学療法と放射線療法がともに有効です。
他方、非セミノーマは転移を起こしやすく、より悪性の経過をとり、化学療法は有効ですが、放射線療法は有効ではないからです。
年齢別にみた精巣がんの罹患(りかん)率は、20歳代後半から30歳代にかけてピークがあります。また、40歳未満の罹患は全罹患数の約3分の2を占めます。
組織学的分類では、胚細胞腫瘍(精母細胞から発生するもの)が全体の約95%を占め、そのうちセミノーマが約70%、胎児性がんと複合組織型がそれぞれ約10%、卵黄嚢腫、絨毛がん、および奇形腫がそれぞれ数%となっています。

【2】症状

多くの場合、痛みや発熱を伴わない陰嚢の腫大や、精巣のしこりに気づくことで発見されます。常に気をつけて精巣の大きさやかたさに注意していない限り、精巣内のしこりが小さい時期に自分で発見することは困難です。ときに、精巣を強打して、はじめてその腫大に気づくこともあります。
陰嚢内に硬いしこりが触れる場合、精巣上体(副睾丸)炎や精巣軸捻転などの病気が多いのですが、これらの疾患では多くの場合、痛みや発熱などの症状を伴うことが特徴です。また、無症状のままで陰嚢内にしこりを触れる特殊な場合として、結核菌による精巣上体(副睾丸)炎や陰嚢内に水がたまる陰嚢水腫などの疾患があります。
転移病巣による症状で発見されることもあります。例えば、腹部大動脈や大静脈の周囲のリンパ節が非常に大きくなった場合には、心窩部(しんかぶ:みぞおちのあたり)に硬い大きなしこりを触れたり、このしこりによる腰痛を訴えたりするようになります。腹痛や呼吸困難、首のリンパ腺の腫れ、体重減少、乳首の痛みや腫れなどもおこります。また、咳とともに血液が混じったりした痰が出たりすることもあります。

【3】診断

1.触診

ずしりとした重みの有る精巣を触れます。反体側の正常な精巣と比較すると、精巣上体ではなく精巣そのものにしこりや腫れが有ることを確認します。
腫瘍が小さく、精巣の一部を占めるだけの時には、触診でやわらかい精巣の中の硬いしこりとして触れます。
腫瘍が精巣内をほとんど占拠するようになると、精巣全体が硬いしこりとして触れます。精巣が全体にかたくなった時期では、左右の大きさの差、かたさの相違などから自己判断もできます。部屋を暗くして直接に陰嚢に光をあてて、どの程度、光線を通すか(透光性)を確認します。水が貯留した水腫では全体に明るく、光が通るのが見えます。

2.超音波検査

陰嚢内に水がたまっていて精巣そのものが触れにくい場合、精巣の腫瘍が小さい場合などにとても有効な検査です。超音波検査では、腫瘍か水腫かの判断もできます。

3.血液検査

精巣原発の胚細胞腫瘍の診断において、腫瘍マーカー(血液検査)の役割は非常に重要です。腫瘍マーカーとは、腫瘍細胞が産生する物質で、腫瘍の種類や量を知る目印になるものです。腫瘍マーカーには、αフェトプロテイン(AFP)、HCGあるいはHCG-β、ときにLDHなどがあり、この腫瘍マーカーの種類と存在する病理組織像の間には相関があります。そこで、腫瘍マーカーの数値により、病理組織が推定できるわけです。ただし、すべてのタイプの腫瘍が腫瘍マーカーを産生するわけではありません。セミノーマや奇形腫では、多くの場合腫瘍マーカーは上昇しません。

4.組織検査

精巣がんでは、前立腺がんのように手術前に組織検査をして診断を確定することは、転移を生じる恐れがあるため禁忌(きんき:避けること)です。

5.転移の有無

原発病巣の診断が確定したら、次に転移の有無に関する診断を開始します。精巣に発生した胚細胞腫瘍は、他臓器にみられる悪性腫瘍と同様に、原発臓器(精巣)にしばらく限局して増大し、やがて転移します。多くの場合、最初に転移するのは腹部大動脈周囲のリンパ節で、精巣からリンパ管を経由して転移します。次いで肺や横隔膜より上のリンパ節、さらに肝臓、脳などに転移します。腹部リンパ節転移や肝転移に対しては腹部CTや腹部超音波検査、ときにMRIなどが実施されます。肺転移に対しては、胸部単純撮影、胸部CTが実施されます。脳転移についてはMRIあるいは、脳CTが実施されます。

【4】病期(ステージ)

陰茎がんは以下の病期に分類されています。

 I期  腫瘍が原発病巣に限局して存在しており、転移が無い場合をいいます。実際には、原発病巣である精巣摘出後に、各種の転移を検索する検査で異常を認めず、かつ腫瘍マーカーの上昇があった場合には、この数値が精巣摘出後に順調に低下し、正常化した場合をI期としています
 II期  横隔膜以下のリンパ節転移、つまり腹部大動脈、大静脈周囲のリンパ節だけに転移している状態をII期と定義しています。このII期を、さらにリンパ節のサイズにより、小さい時をIIa期、大きい時をIIb期と細分類しています。
 III期  転移が横隔膜以上のリンパ節にまで認めれた場合をIIIa期、肺に認められた場合をIIIb期、さらに肝や脳などの肺以外にも転移が認められた場合をIIIc期としています。
 IV期  癌がさらに広範に浸潤し、頭の中(頭蓋内)、脳神経、眼窩、下咽頭などへ拡がる、頸部リンパ節転移が6cmを超えるか、転移が鎖骨上までおよぶ、遠隔転移を認めるといった状態。

この病期分類は、癌の進行にしたがって定義されたもので、治療方針を考える上で極めて実際的なものです。

【5】病期(ステージ)別治療

悪性腫瘍が疑われた場合には、この腫瘍は非常に速く増殖し、転移しやすいという特徴がありますので、診断の意味も込めて直ちに精巣を摘出する手術をします。もし、転移がなければ原発病巣を摘出するだけで根治したことになります。

I期

まず高位精巣摘除術を行います。高位精巣摘除術とは、陰嚢ではなく足の付け根の鼠径部を切開し、精巣に向かう血管をまず結紮し、癌細胞が手術操作によって散らばらないようにしてから、精巣、精巣上体、精索を一塊として摘出します。
精巣摘出後、通常はそのまま何もしないで観察します。CTなどで転移がないとされても1~2割では目に見えない転移がすでにあって、そのような場合は1~2年以内に大きくなって再発として認識されるようになります。そのため転移の出現を予防するための治療を追加することもあります。予防的治療を追加しない場合は術後1~2年の間は毎月のマーカーチェックと3ヶ月に1回のCT、あるいは腹部超音波検査で細かく経過観察することで早期発見早期治療をすれば再発症例でも根治率がほぼ100%と良好です。
I期の場合、最終的な成績は良好で、ほとんどの症例で根治が期待されます。

IIa期

腹部大血管周囲のリンパ節転移のサイズが小さい場合では、病理組織像によって方針が異なります。
1.セミノーマ
転移が一度確認された時には、すでに病気が全身に拡がっている可能性も考慮して、多くは抗癌剤による全身的化学療法(次項「非セミノーマ」を参照)が選択されます。セミノーマでは、放射線療法が有効であること、比較的に肺、肝、脳転移などの血行性転移が少ないことから、局所療法ではありますが、放射線療法のみでも十分に根治が期待され、放射線療法のみで終了することも可能です。
いずれの治療法でも80~90%の根治が可能ですが、放射線療法のみではやや成績が劣り、また放射線治療により10年、20年後に他の臓器の癌が発生(二次的消化器悪性腫瘍の発生)する頻度が少し高くなるという報告もあり、現在では化学療法を第一選択にされることが多いようです。
2~4コースの化学療法により、CT上腫瘍が消失し血液検査でのマーカーの値が正常化すれば治療は一段落します。この時点で10%ぐらいに生き残りがあり再発することがありますが、セミノーマの場合、化学療法がよく効くので早期に発見できればまずは再び化学療法で対応しても高い確率で根治が得られます。そのためそのまま病期I期のように経過観察することも可能です。
2.非セミノーマ
非セミノーマでは放射線療法があまり効かないので、抗癌剤による化学療法が第一選択となります。 シスプラチンという抗癌剤の登場で治療成績が飛躍的に向上し、約70~80%の症例で外科療法との併用で根治が期待されるまでになっています。抗癌剤は、シスプラチン、エトポシド、及びブレオマイシンの3剤を併用したBEP療法か、シスプラチン、エトポシドの2剤を併用したEP療法を行うことが、一般的に第一選択となっています。
約20~40%を占める奇形腫は、抗癌剤では死滅しないので画像上残ります。そのため、化学療法の目標は、マーカーがあればその正常化、なければ画像上の縮小が認められなくなること、ということになります。マーカーの正常化が得られて画像上残っているものは奇形腫と考えられ、手術で摘出するしかありません。
加えて、化学療法後CT上腫瘍が消失し血液検査でのマーカーの値が正常化しても20%に奇形腫以外の悪性細胞が残ります。生き残った悪性細胞は再発時に化学療法抵抗性であることが多く、根治を得る確率が低下します。そのため、マーカーが正常化すれば、転移があったとされる範囲は手術によりきれいに郭清(かくせい:摘出手術により掃除)すること(これを、後腹膜リンパ節郭清術といいます)が安全策として勧められています。

IIb期以上、III期

病期が進行すると病理組織像によらず、セミノーマでも非セミノーマステージIIaのように化学療法が選択されます。
なぜなら、転移腫瘍のサイズが大きくなると放射線治療、化学療法のみでは画像上消失しないで、郭清術を必要とすることが多く、放射線治療はその後の手術を困難にするため、セミノーマであっても手術のことも考慮してまずは化学療法が選択されるからです。初期化学療法の方法はステージIIaと同じです。化学療法の目標は画像上腫瘍の縮小が止まるか、マーカーがあればマーカーの正常化で、その後可能な限り初期病巣をすべて郭清することがすすめられています。IIIb期やIIIc期では初期病巣をすべて切除することが不可能な場合が多く、半分近くのケースで長期の予後不良です。
転移のある精巣腫瘍の中で2~3割では、2~4コースの初期化学療法だけではマーカーの正常化が得られないこともあります。
その場合には一般的にはエトポシド、イフォマイド、及びシスプラチンの3剤併用のVIP療法が次の手段になります。VIP療法を2~3コース施行しても不十分な場合、その次の手段として確立したよい方法は残念ながら現在のところありません。マーカーが正常化していなくてもかなりのところまで下がっていれば手術による郭清術を試す考えもないことはありませんが、原則的にはマーカーの正常化が得られていない場合、全身に拡がっている目に見えない生きた悪性細胞があるものと考えられ、(局所療法である)郭清術による根治は期待できません。

【6】治療の副作用

1.抗癌剤の副作用

抗癌剤の副作用は、投与直後の短期的副作用と長期的副作用に分けて考えられます。
(1)短期的副作用
食欲不振、嘔気・嘔吐などの消化器症状と、腎機能障害、耳鳴り、難聴、手指末端の知覚障害などの末梢神経障害、白血球数や血小板数の低下(骨髄抑制)や脱毛などがあります。以前はこの副作用のために投与が難しいとされてきましたが、大量の補液で尿量を多くしたり、制吐剤の投与などで十分に安全に行えるようになっています。
(2)長期的副作用
慢性腎機能障害、末梢神経障害は永久に残ることがあります。しかし、副作用を軽減する処置を徹底することで、かなり予防することが可能です。その他、二次的腫瘍(腎腫瘍、白血病)の報告もありますが、その確率は非常に低いものです。また、残った精巣における造精機能に障害をきたし、男性不妊症の原因となります。

2.放射線療法の副作用

先に述べましたように精巣腫瘍では現在放射線治療をすることはあまりありません。
セミノーマに対して実施される放射線療法では、その総照射量は多い量ではありません。腹部大血管周囲のリンパ節に照射した場合でも、副作用はあまり重篤ではありません。照射中の全身倦怠感、食思不振、下痢、微熱なども一時的なものです。長期的副作用として、二次的消化器悪性腫瘍の発生などが報告されていますが、その頻度は高くはありません。

3.その他の副作用

腹部大血管周囲のリンパ節(後腹膜リンパ節)郭清術を施行した場合には、その後に射精障害がおこることがあります。射精障害は、射精した時の感じに変化はありませんが、精液が出なくなったり、逆行性射精といって、精液が膀胱の中へ逆流するようになったりします。
これは、男性不妊症の原因となり、この疾患が若年者に多いため重大な問題となります。手術の範囲によって状況が異なり、必ず発生するとは限りませんし、その程度にも差異はあります。病気の拡がりによっては、射精機能を残すような神経温存手術も可能ですが、病気の根治との兼ね合いで手術前に十分話し合いをする必要があります。

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